ほぼニール・アームストロング目線で淡々と。映画『ファースト・マン』を観た(※ネタバレあり)

無職の良いところは、思い立ったその瞬間に映画を観に行けるところ。

昨日はレディースデーだったこともあり、IMAXのシアターに映画『ファースト・マン』を観に行った。デイミアン・チャゼル監督、ライアン・ゴズリング主演。人類で初めて月面に降り立ったニール・アームストロングが主人公。

先日、アポロ計画の宇宙飛行士達へのインタビューを中心に月面着陸計画を描いたドキュメンタリー、『ザ・ムーン』のDVDを観たのと、その後にアポロ計画やアームストロング自身についてググったのがかなりの予習になってしまった。

娘の死やアポロ1号の事故、月面着陸船での地上訓練中の事故、指令船から離れて月面に着陸するまでのエラーコード1202の意味等も分かっている状態で鑑賞した。それでも見ごたえありで、予習しておいてよかった、と思えた。ちなみに、エラーコードについての詳細は宇宙兄弟 Official Web の記事が詳しい。(【第13回】〈一千億分の八〉アポロ11号の危機を救った女性プログラマー、マーガレット・ハミルトン

で、わかってはいたものの、娘の死では泣いてしまった。2歳のまだ、ぷよぷよとした腕。まだ喋ることもできないような子が、あの棺に入っているかと思うといたたまれない。そして、冒頭のX-15のテストの場面はかなり手に汗を握った。ほぼ全てがニール・アームストロングの目線で、狭いコクピットや機内の計器ばかりが画面に映り、しかもぶれたりして何のスイッチなのかも判別が難しい。飛行中の機体も映らず、機体が最初に画面に映ったのは彼が着陸した後だ。そんな映像で面白いの?と思われるかもしれないが、これが面白い。というか怖い。今まで見たことがなければ、聞いたこともないシーンだった。音も映像もリアルに思えた。特に音は機体が壊れる寸前、というような音がしていて、本当に恐ろしかった。

その他の場面も、アームストロングの視点か、妻ジャネット(1994年に離婚したので正確には元妻)の視点が多く、その他の人の視点で描かれることは数える程だった。チャゼル監督の他作品『セッション』、『ラ・ラ・ランド』と同様に、視点が限られた世界、主観しかない世界というか、そういう作り方がされている。

その限られた世界で、家庭での普通の父親や夫としての彼と、仕事場での厳しい職務に従事する彼が行ったり来たりする。淡々と描かれてはいるが、主人公が宇宙飛行士なだけに目まぐるしい。職場の同僚が何人も死んでいったり、自分が死にそうな目にあったりすることは私にとっては日常ではない。そんな仕事場での彼の姿は非日常だが、ただ、彼にとっては家庭も仕事場も日常だったのだろう、と。月面着陸でさえも、彼の日常の延長線にあったのだろう、と。そう感じた。だからこその、あのラストシーンかな、と。

ラストは地球帰還後の隔離施設で、ガラス越しにアームストロングが妻ジャネットに再会するシーンで終わる。劇的な演出もなく、何のセリフもなく、見つめ合う2人のシーンがフッと暗転してエンドロールが始まる。正直、エッ、ここで終わり?となったが、アームストロングとジャネットの生き方、人生観を良く表したラストだったと思う。

アームストロングは月面着陸後、英雄と称えられ、注目を浴びることに辟易し、早々に隠居生活を送ることとなった。自身の子供に「常に謙虚であれ」と言っていたそうだが、彼や元妻ジャネットも常にそうして生きた人だったようだ。彼が生きていたら、この映画での自身の描かれ方には満足したのではなかろうかと思う。

あと気付いたことは、意外と後半に進むにつれて、ロケット打ち上げなどの手順の描き方があっさり、軽めになっていったところ。ハイライトである、アポロ11号の打ち上げなんて、秒読みが途中で終わってしまい、気付くとリフトオフしてしまった。冒頭のX-15のシーンで感じた恐ろしさもなかった。アポロ11号のミッション成功は誰もが知るところだから、というのもあるかもしれないが、アームストロングとしては、大気圏の外に出るのは3度目 (劇中ではその回数) だったのだから、彼の中では省略されても仕方がないのかもしれない。彼の心境を知ろうと思い、原作となっている彼公認の伝記「ファーストマン(上) (ニール・アームストロングの人生)」を図書館で早速、予約した。

こうやって気軽に図書館を利用できてしまうのも、無職の良いところ。

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